三河朱夏〈名鉄蒲郡線 2020.8〉

名鉄蒲郡線

「旅行者はみんな名古屋を通り過ぎていく」と愛知県出身の方々は言う。
確かに、自分もナゴヤドームで一回野球を見たくらいで、そんなに思い出がない。

名古屋でそんな有様なのだから、新幹線も停まらぬ蒲郡(がまごおり)という街を訪れたという人は少ないであろう。

三河湾の最深部に位置し、繊維産業で栄えた蒲郡市は、周辺に温泉を多数有し、名古屋近郊の保養地として戦前から開発された……が、長年にわたり人口・観光客数は減少し続けているという。
まあ、ありがちな日本の地方都市といった趣である。

そんな蒲郡から海沿いにチョロチョロと出ているのが、この名鉄蒲郡線だ。

マリンブルーの三河湾を対を為すように、名鉄伝統のスカーレットで塗られた列車。
100年近い歴史を持つ路線なのだが、蒲郡市の衰退と共にするように乗客数は減少。
毎年数億円の赤字を積み上げ、近年路線の廃止が検討されていた。

某ロナウイルスのせいもあるだろうが、確かに客足はまばらだ。
時間によっては、地域の学生や競艇場へ向かうおっちゃん達で賑わうのだろうが、それでも昼間時は空気輸送と言わざるを得ない。

しかしながら、鉄道オタクにとって名鉄蒲郡線は大変魅力的な路線だ。

全車が鮮やかな赤色の名鉄6000系。これが蒲郡吉良吉田(きらよしだ)間を1時間に2往復、15分に1回撮影が可能なのである。僕がよく行く小湊鐡道より4倍も効率がいい。

東幡豆の駅前でレンタルサイクルを借り、海辺の道を走れば心地良いことこの上ない。

何よりも、沿線のハイライトと言える、西幡豆(にしはず)から西浦にかけての区間では海を入れて撮影ができる。

二つ上の東幡豆の短いガーター橋は、名鉄蒲郡線を知ったきっかけの場所でもありお気に入りのポイントだ。

海が近い路線と言ったら、江ノ島電鉄や予讃線の下灘駅など日本にはたくさんあるが、蒲郡線はべらぼうに近いわけではない。

けれど近いようで遠い、もどかしい微妙な距離感が僕は好きで、なんとか海を入れて撮ってやろうと試行錯誤し場所を探すのが楽しいのだ。

三河は中京圏の米どころ。開けたところには田んぼが広がっている。
光の三原色カットがこの時期の定番になりそうだ。

沿線ではそこらかしこでハマユリやヒマワリが暑さに負けじと咲き誇っていて、自転車を駆使して一つ一つ舐めていく。桜で有名な場所もあるというので、春が待ち遠しい。

この日の蒲郡は最高気温36度の猛暑で、海風があるとはいえ丸一日チャリを漕ぐのはしんどい。
一旦宿に戻り、日が落ちてから出直すことにした。

朝から東幡豆ばかりで撮っていたので、形原駅に転戦してみる。
この駅は様々な角度から狙え、撮るのに夢中で気が付けば終電間際になっていた。

2020年春、蒲郡線廃止の延期が決定し、少なくとも2025年までは存続するという。
しかし存続のために、毎年蒲郡市・西尾市がそれぞれ2億円強の支援金を捻出するという状況では、沿線住民ではない市民からの反発は避けられない。蒲郡線に未来はあるのか。

この蒲郡線の渋い魅力に気付けるのは、たぶん鉄道オタクだけだと思う。
もちろん僕らが乗って、写真を撮って、発信したところで大した貢献にはならないのであるが、愛知県の海っぺりにこんな素晴らしい路線があることをオタク各位には知って頂きたいのである。



「みんなで名鉄電車に乗ろう!」

(撮影日 2020.8.9)

コメント

  1. あさしん より:

    素敵なお写真ですね。海を入れた俯瞰の写真はどちらで撮られたものでしょうか?差し支えなければ教えていただきたいです。よろしくお願いします。

    • eltrende より:

      返信遅くなりすみません!
      ゆうひが丘展望台、というところです。

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