朝礼で上司から「有休ちゃんと取っているか?暇なら今週あたり取っていいぞ」との言葉。
なんという僥倖。今週は海の日連休があるではないか。いつもは怖い顔をした上司の顔が、今日ばかりは慈愛に満ち溢れていた。
そんなこんなで突如降って湧いてきた4連休。どこに行こうかと思案。
迷った末スカイスキャナーを叩き、週末のフィリピン行きのEチケットを手にした。
関空から首都・マニラに到着後、早速マニラ郊外のアラバン(Alabang)という街へ列車で向かった。
何やらこの辺りでは不思議な光景を見ることができるというのだ。
アラバン駅に着き周辺を見渡してみると、カラカラと乾いた音ともにラーメンの屋台のような謎の物体が右へ左へ転がっていく。
しかも、今しがた自分が乗ってきた列車が通っていた、線路の上をである。
この”トロリーボーイズ”と呼ばれる者たちは、フィリピン国鉄の線路を拝借しお手製のトロッコを走らせ、乗客を乗せている。
トロッコには10人ほど乗れる椅子が備わっており、速度はチャリより遅い程度。
しかし、深刻な交通渋滞に見舞われるマニラでは、定時性の高い移動手段として公共交通の一翼を担っており、多くの人々が通勤・通学や買い物のために利用している。
30分に1本程度、線路の”本来のヌシ”がやってくるので、そのときは上のようにパワープレーで特急退避を行う。
危なっかしいことこの上ないが、驚くことに今まで事故は起きていないらしい。
ちなみに写っている列車は、かつて常磐線や地下鉄千代田線で走っていた203系という車両である。
フィリピンをはじめ、東南アジアの諸国では日本のお古の車両が数多く活躍している。
沿線はスラムと言うほどではなく、あまり治安の悪さは感じない。
私のような外国人が来ることはほとんど無いのだろう、あやしいジャパニーズを発見したチビッコ達に熱烈歓迎を受けた。
炎天下、サッカーにバレーボールに縄跳びに興じ、体力と引き換えに類稀なるチビッコパワーを頂いた。
夕方涼しくなってから、アラバンの隣町・ビクタン(Bicutan)へ移動した。
トロッコの一回の乗車は10ペソ(約20円)。トローリーボーイズの収入は良いときで一日500ペソ(約1000円)だそうだ。
彼らの殆どがこのトローリーボーイズの収入のみで生計を立て、子供を育てている。
あずきバーでさえ数秒で溶けだしてしまいそうなこのクソ暑いマニラで、朝から晩までトロッコを転がせば、体力消費は尋常で無いだろう(チビッコとのサッカーで思い知った)。働き盛りの若者ならいざ知らず、トローリーボーイズには子供や老人の姿も多い。
こんなにも生きることに貪欲な人々が居るとは、日本では想像だにできなかった。
僕がこうして有休を取って、撮影に行けるのは大変に恵まれていてありがたいことなのだ。
もっと労働に感謝、賃金に感謝、休暇に感謝しなければならない。
どんな新入社員教育でも得難い教示を、マニラの線路際でむしゃむしゃと感じとった社会人一年目の夏であった。
(撮影日 2019.7.13)
フィリピン撮影記②へつづく。
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